基礎・臨床研究
basic & clinical research

研究内容の紹介
introduction of research contents
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中枢神経系傷害に対する保護・再生医療

 神経細胞は一度障害を受けると,基本的には再生しないと考えられています。このため,救命センターに搬送される頭部外傷,脳梗塞,脳出血,脳炎等は,たとえ救命できても後遺症を残す可能性が高い疾患群です。また,心肺停止に対する救命率が上昇する一方,遷延性意識障害の克服が重要課題となっています。いかに侵襲に対し,中枢神経系を保護し,再生させるかを,我々は独自の視点から研究しています。

脈絡叢・脳脊髄液の解析

 中枢神経は,脳脊髄液という特殊な環境下に置かれています。神経の研究は,主にニューロンを中心に発展してきました。最近になり,ニューロンを支持する細胞群,すなわちアストロサイト,オリゴデンドロサイトの機能が,ニューロンと関連しながら,中枢神経の維持に重要な役割を果たすことが明らかとなってきています。更に我々は,これらの個々の細胞群を包括的に影響を与える可能性のある脳脊髄液に注目しています。地球を例にするならば,地球に住む生物が危機に陥った時,瀕死の生物を助けるだけでなく,大気とか海とか,生物を取り巻く環境の悪化にも注意を配らなければなりません。中枢神経環境を特徴づける脳脊髄液が,中枢神経系機能維持に重要な役割を果たしているのではないかと考えています。脳脊髄液のほとんどを産生する脈絡叢細胞を,ラット脳梗塞モデルの脳室内に移植すると,脳梗塞損傷を抑制し,予後が改善することを明らかにしています。脈絡叢からは,様々な神経保護作用を有する因子が分泌されているようです。現在,脳虚血性疾患だけでなく,敗血症を代表とする多臓器不全における脳症を含め,集中治療を要する急性疾患における脈絡叢,脳脊髄液の役割の解明の研究に着手しています。将来的に,脈絡叢細胞を賦活化させることにより中枢神経系を活性化する治療の開発を行っていく予定です。

脳虚血疾患における脳保護

 我々の一つの目標が,蘇生後脳症の克服です。我々は,スナネズミを用いた脳虚血再還流損傷モデルを用いて,脳血流,脳温を測定するとともに,実態顕微鏡を用いて脳血管径を評価する手技を有しています。これまでに,脳虚血時間が長くなると脳血流の改善が悪く,脳温が上昇したままになることを示しました。低体温療法を導入すると,虚血再灌流後の過還流を抑制し,さらには,その後に引き続く小動脈の血管収縮を抑制することで,生存率を改善させることを明らかにしました。一方,我々の実験系では,全脳虚血に対する生存効果を得るためには,虚血後10分以内の低体温療法の導入の必要性があると結論づけており,現実的な臨床の現場では,心肺停止患者に対して病院前からの脳低温療法の導入が合理的ではないかと考えております。現在,低体温・低脳温における脳保護作用を再検討し,よりよい臨床への応用を目指しています。

敗血症性脳症の研究

 重症敗血症に対する集学的治療により救命を得たとしても,記憶障害を含む高次脳機脳機能障害により社会復帰が阻まれる症例が存在します。敗血症に伴う二次的な脳虚血,血液ガス異常,臓器不全による代謝異常だけでは説明できません。我々は,敗血症による全身炎症に引き続き血液脳関門が破綻し,海馬における炎症細胞の浸潤・活性化が促進され,これらの細胞から分泌されるIL-1βが記憶に関与する長期増強を抑制することを明らかにしています。現在,非侵襲的に頭蓋内の炎症を抑制するデバイスの開発に取り組んでいます。

脊髄損傷に対する再生医療

 脊髄損傷に対する細胞移植治療は,世界的にもさまざまな角度から応用されています。代表的なものは,骨髄間質細胞を用いた治療です。非常に有望な治療ですが,欠点は,移植に用いる骨髄間質細胞を増やすのに培養する必要があり,移植までに1,2週間程の時間を要することです。我々は,ラット脊髄損傷モデルに対し,骨髄単核球細胞を脳室内に投与すると,損傷を抑制し,行動学的な機能改善を認めることを示しました。単核球細胞であれば,急性期に患者本人より回収し,そのまま移植することが可能です。

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